発信者情報開示請求事件や、インターネット情報の削除請求事件など、今では一般的になりつつある法分野ですが、これらの請求に通じて適用されている法律として「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称:プロバイダ責任制限法)があります。
このプロバイダ責任制限法が改正され、本年4月から施行されました。改正後は、本法令の名称も新たに「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(通称:情報流通プラットフォーム対処法)となります。
そこで本記事では、この改正が何を目的としてどのような変化をもたらすのか、調査してみましたので簡単に解説してみたいと思います。
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本改正の主なポイント
先にも説明のとおり、プロバイダ責任制限法は、インターネット情報の削除に当たるコンテンツプロバイダの責任範囲を限定し、また、発信者情報開示命令制度を定めた法令となっています。(削除請求、発信者情報開示請求の方法等の実務的な内容については、改めて個別記事にてご紹介いたします。)
では、2024年の改正で改めて何が変わったのか、主要なポイントを以下にまとめますが、結論を簡単に言うならば、削除、開示請求の実務的な運用としては大きな変化はないものと考えています。
法律名称の変更と目的の明確化
そもそもですが、法令の名称が新たに「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に変更されました。通称も「情報流通プラットフォーム対処法」となります。
これは、単に発信者情報の開示だけでなく、情報流通全体における権利侵害への対策を包括的に扱う法律へと進化したことを示しているものと考えられます。特に、以下に示すような、「情報流通プラットフォーム」の運営に際しての規制が、今後も追加されていくのではないかと期待されます。
大規模プラットフォーム事業者への新たな義務
本改正の目玉とも言えるのが、総務大臣が指定する「大規模プラットフォーム事業者(法2条、法21条に定める「大規模特定電気通信役務提供者」)」に対する規制の強化です。
具体的には、以下の義務が課されました:
・削除申請への迅速な対応: 誹謗中傷や権利侵害が疑われる投稿について、被害者からの削除依頼に対して迅速に対応する義務が設けられました。
具体的には「大規模特定電気通信役務提供者は、第二十四条の申出(注:削除請求等の申し出)があったときは、同条の調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、当該申出を受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める事項を申出者に通知しなければならない。」(法26条1項)など、期間を定めた回答義務が定められています。
・運用状況の透明化: 削除や対応のプロセスを透明化し、どのような基準で判断しているのかを公表する義務が課されました。
具体的には「大規模特定電気通信役務提供者は、その提供する大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通については、次の各号のいずれかに該当する場合のほか、自ら定め、公表している基準に従う場合に限り、送信防止措置を講ずることができる。この場合において、当該基準は、当該送信防止措置を講ずる日の総務省令で定める一定の期間前までに公表されていなければならない。」(法27条1項)であるとか「第一項の基準を公表している大規模特定電気通信役務提供者は、おおむね一年に一回、当該基準に従って送信防止措置を講じた情報の事例のうち発信者その他の関係者に参考となるべきものを情報の種類ごとに整理した資料を作成し、公表するよう努めなければならない。」(同4項)というように定められています。
つまり、改正法においては大規模プラットフォーム事業者には削除等の措置をする基準を公表する義務があり、かつ、その基準に当たるか否かを判断するのに役に立つ事例集などを1年に1回作成し、公表することが努力義務となっています。
この「大規模プラットフォーム事業者」とは、例えばTwitter(現:X)やFacebook、YouTubeのような大規模なSNSや動画共有サービスを指すと考えられます。対象となる事業者は総務省令に定める基準によって指定されますが、具体的な基準は今後明確化される予定です。
2025年施行の動き
総務省等関係機関は、現在も円滑な運用に向けたガイドラインの策定や、大規模プラットフォーム事業者の指定基準の検討を進めている様子です。現行のプロバイダ責任制限法関連情報Webサイトでも、改正に応じガイドラインの見直しが必要であれば適宜修正がされていくとのことですので、現行のいわゆる「テレサ書式」などにも今後変化があるかもしれません。
今後の展望と課題
本改正は、インターネットにおける権利侵害への対策の一歩といえます。本改正法の法案提出段階でも、「大規模SNS等」に対する侵害情報送信防止措置の迅速化、実施状況の透明化を図るための「義務を課す必要がある。」と明記されています。
そのため、現状対応困難とされる事案への対処のほか、例えば、AIによる自動投稿やディープフェイクといった技術革新に伴う問題への対応、国際的なプラットフォームへの法令適用など、山積する課題に対しても、本改正を皮切りに今後も法令の拡充が期待されます。
また、法律の実効性を高めるためには、運用面においても、ガイドラインによる各サイト共通の標準的な削除基準および開示基準の策定、明確化など、細かな調整が不可欠のように思います。
今後の動向も引き続き注視する必要があるといえます。
まとめ
「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」への改正は、重要な改正と言えますが、実効性という意味ではあまり変化がないようにも思われます。
もっとも本改正によって、特に大規模プラットフォーム事業者への規制が強化されたことで、間接的には、事業者に対して利用者が実効的な削除の申し立てをする機会を得られたとも考えられます。
本改正を起点として、発信者情報の開示なども簡易迅速な手続きによって進められるようになることを期待します。
インターネットは便利さと同時にリスクを孕むツールです。本改正法を通じて、より安全で健全な情報流通環境が築かれることを願いつつ、私としても今後の動向にも注目していきたいと思います。
名誉棄損やリベンジポルノ、著作権侵害などによる、インターネット上の侵害情報の削除、発信者情報開示請求をお考えの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。
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