日本における刑事司法手続きの中で、「勾留」(逮捕された人が一定期間身柄を拘束される状態)がされたとき、その理由や根拠が本人に明かされないままでは、不安や不信感が募るのも当然です。そこで登場するのが「勾留理由開示請求」です。この制度は、被疑者やその弁護人が勾留の理由を知る権利を保障するもので、日本の刑事訴訟法に定められた重要な手続きの一つです。本記事では、勾留理由開示請求について解説します。
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勾留とは
まず、勾留理由開示請求を理解する前に、「勾留」そのものについて簡単に確認しておきましょう。勾留とは、逮捕された被疑者がさらに長期間(通常10日間、延長されれば最大20日間)身柄を拘束される措置です。逮捕は最大72時間(3日間)しか認められていないため、それ以上の拘束が必要な場合、検察官が裁判所に勾留を請求し、裁判官がその必要性を判断して決定します。
勾留が認められる条件は、刑事訴訟法第60条に規定されています。具体的には、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合」であることに加え、以下のいずれかに該当する場合です。
①住居が定まっていない
②証拠隠滅のおそれがある
③逃亡のおそれがある
このように、勾留は捜査を円滑に進めるために必要な措置とされていますが、被疑者にとっては自由を大きく制限される状態です。そのため、なぜ自分が勾留されるのか、その理由を知る権利が重要になります。
勾留理由開示の法的根拠
刑訴法82条1項
「勾留された被告人又は被疑者は、その弁護人とともに、勾留の理由を開示する公判手続を請求することができる。」
この規定により、被疑者は自分がなぜ勾留されているのかを裁判所で明らかにする機会を得られるのです。
勾留理由開示請求の流れ
(1)裁判所への請求書類の提出
勾留が決定した後、被疑者本人または弁護人が裁判所に「勾留理由開示請求申立書」を提出します。この書面には、請求者の氏名や勾留されている事件の概要等を記載します。被疑者本人は勾留されているため、弁護人が書面を作成し提出することが多いです。
(2)裁判所による期日指定
請求が提出されると、裁判所は5日以内に勾留理由開示期日を開けるように日程を指定します(刑事訴訟法規則82条1項、同規則84条)。この迅速性が、被疑者の権利保護において重要なポイントです。
(3)公開の法廷での理由の開示
勾留理由開示手続きは、公開の法廷で行われます(刑事訴訟法83条1項)。これは、透明性を確保し、恣意的な運用を防ぐための措置です。法廷には裁判官、弁護人、そして被疑者本人が出席します。裁判官が勾留の理由を説明します。
ここで重要なのは、このとき、弁護人や被疑者は、裁判官に質問(求釈明)をしたり、勾留の必要性や妥当性について意見を述べることができることです。被疑者が裁判官に勾留について直接意見をいう機会は、極めて貴重な上、期日中に話した内容は公的な文書(調書)にも残ります。この点で、勾留理由開示請求は重要な手続であるといえます。
また、開示された内容をもとに、弁護人が今後の弁護方針を立てる上で重要な情報が得られることがあります。
勾留理由開示請求の意義
勾留理由開示請求には、被疑者や弁護人にとってどのような意義があるのでしょうか。以下に主なポイントを挙げてみます。
(1)透明性の確保
勾留は、被疑者の自由を大きく制限する措置です。その理由が曖昧なままでは、被疑者は自分がなぜ拘束されているのか理解できず、不信感を抱くでしょう。開示請求によって具体的な理由が明らかになることで、裁判所の判断に透明性がもたらされます。
(2)弁護活動の充実
弁護人は、勾留理由を知ることで、被疑者の防御戦略をより効果的に構築できます。例えば、証拠隠滅のおそれが理由とされている場合、そのおそれがないことを示す証拠を準備するなど、具体的な反論が可能になります。
勾留理由開示請求のメリット
(1)被疑者が直接法廷で裁判官に勾留に対する意見を述べることができる。
被疑者は、勾留理由開示請求の期日で、裁判官に意見を述べる機会を与えられます。このように被疑者が裁判官と直接話をする機会は、この期日以外にほとんどなく、大変貴重な機会だといえます。また、裁判官に話した内容は公的な文書として残ることも重要なメリットです。
(2)公開の法廷であるため、家族が被疑者の様子を見ることができる。
被疑者の中には、弁護人以外の者との接見を禁止されている方もいます。被疑者の家族からすれば、被疑者の様子を少しでも見たいと考える方も多いでしょう。勾留理由開示請求期日は、公開の法廷で行うため、誰でも傍聴することができます。すなわち、勾留理由開示請求をすることにより、ご家族が被疑者の様子をうかがうことができる貴重な機会を設けることができます。
まとめ
勾留理由開示請求は、勾留の理由を明らかにすることで、透明性のある手続きが実現し、弁護活動の基盤が強化されます。それにもかかわらず、実際にはあまり活用されていません。弊所では、この権利の重要性を重視し、積極的にこの手続を活用しています。もしも、身近な人が勾留されてしまった場合には、早めにご相談ください。
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